少し前にお会いした、元コンサルタントの方の話だ。

彼は、「自分は特に優秀ではない」と悟ってから、一気に成果が出るようになった、という。

 

だが、優秀ではない、ということと、成果が出る、とは相反するように見える。

「一見、逆説的に聞こえるけど」と問うと、彼は

「いや、重要だよ。」という。

 

「僕は自信家で、とにかく人に勝ちたかった。出世、給料、有名になることも含めて。」

「野心があるのは悪いことじゃないと思うけど。」

「うん、でも、勝てないんだよね。すごい人ってたくさんいるから。例えば、先輩が作る提案書を見る。出来がいいし、何より発想が突き抜けてる。わかるんだよね。あ、自分の作ったものは十人並だなって。結局、自分にはそれほどの才能がないってこと、嫌ってほどわかった。」

「なるほど」

「でも、なんとかして追いつけるんじゃないかと、本を読んで、セミナー出て、でも、勉強すればするほど、先輩が遠ざかる。かえって、実力の差が見えちゃったんだよね。」

「で、どうしたの?」

「いや、追いつこうとするのは諦めた。エンジニアの友達に言ったら、それ、俺もあるって言われてさ。スーパーエンジニアには、十年経っても追いつけないって。才能が違うんだと。」

「ああ、わかるかもしれない。」

「無駄な努力だと悟った瞬間。泣けてきてね。ああ、なんて無力なんだ、なんて俺は平凡なんだって。俺。小さい時から勉強できて、中学受験から就職活動まで、ずっと思い通りだった。でも、いずれみんな負けるんだよね。必ずどこかで。」

「そりゃ、世界一の人以外は皆そうだね。」

「で、そこで考えた。」

「ほう。」

「負けっぱなしも、二流で終わるのも嫌だ。でも、今のままじゃ勝てない。」

「で、どうするの?」

「ルールを見直す。」

「んー、具体的には?」

「地位とか、収入とか、提案書の質とか(笑)。要は、勝手に自分が設定していた尺度をちょっと変えてみる。考えてみれば、単なる見栄なんだよね。そういうのって。」

「まあね。」

「かと言って、「楽しめばいい」とか「趣味を充実」ってのも、なんか逃げたみたいで嫌だった。見栄でもなく自分の中の楽しみだけに完結するわけでもない目標って、何かを考えた。」

「なるほど。結局目標は何にしたの?」

「単純だった。自分のチームと、お客さんが「勝つ」のが目標になれば、頑張れそうだと思った。みんなといっしょに喜びたいし、お客さんの役に立ちたいじゃない。自分一人で頑張るのを、やめたんだよね。」

「ふーん。なるほどね。具体的にはどうやって行動を変えたの?」

「すごい単純で、三つしかないんだよ。自分の他に、後輩の成果に気を配ること。お客さんの満足度には更に気を配ること。上司の滞っている仕事を手伝うこと。

「単純だね」

「そう。それくらいしかできないから。」

「で、結果は出たの?」

「それが、めちゃくちゃ上手く行ってさ。社内でもかなり目立つチームになったんだよ。で、意外だったのは「仕事すごいできるようになったね」って、目指していた先輩から言われたんだよね。そんとき、「ああ、仕事ってこうやるんだ」って気づいた。」

「いい経験だったみたいだね。」

「そう、世界が広がったっていうか、いままでチームワークだ何だ、って言われても全くピンとこなかったけど、これってそういうことなのかもしれないって気づいてさ。」

「確かにそうかも。」

「うん、で、チームワークについての話をするときには、この自分の体験を話してるんだよ。」

 

 

彼のような経験を誰もが上手にできるわけではないだろう。

だが「自分の限界」に苦しんでいる人は、一度考えても良いのかもしれない。

 

 

Books&Appsでは広告主を募集しています。

安達裕哉Facebookアカウント (安達の最新記事をフォローできます)

・編集部がつぶやくBooks&AppsTwitterアカウント

・最新記事をチェックできるBooks&Appsフェイスブックページ

・ブログが本になりました。

(Hernán Piñera